そのあと、また精神の不調の波が来て、心臓が壊れそうになったが、何を思ったのか、走ればうまくいく気がした。この症状が悪化してきてから、私は走れば治ると本気で信じていた。し、案の定少しマシになっているのだ。波を抑えながら、いそいでランニングの服装になって、そのまま家を出た。まだ雲がある午前中の、少しの風がある、かろうじてマシな環境だった。私の実家の近くには、ランニングコースとしては最高の川があり、橋を渡って戻ってくれば、4キロくらいの走りができる。早く走ろうとか長く走ろうとか、そんなことは思わずに、走ってみた。身体はここ最近ずっと重いはずなのに、やっぱり、意外にも走れた。 走っていると無になれる。無数の心配、原因不明の病がぼやっと誤魔化されて、いま目の前の息苦しさ、暑さ、そして爽快感に変換されていく。しばらく走っているとハイになる時間がやってくる。酒を何杯も飲んだときのように、かあっと喜びがやってきた。この感覚は本当に久しぶりで、土曜にたくさん酒を飲んだが、そのときでも味わえない感覚だった。
いつもランニングのときには決まった曲を聞いて、大体がテンポの速いポップスでK-POPのアイドルの曲だったり、桑田佳祐の最近の曲とかに合わせて走っていた。が、今日はなぜか、これを聞いて走ってみたかった。Bandcampで出会ったよく知らない曲。Rixoyという人の「故障」という曲だ。 スーパーマーケットのような曲。誰もいない河川敷、午前中とはいえ猛暑で、走る人などいない静かな川。静止画のように美しい景色に流れるこの曲は、風景をまったく異世 界に変えてしまった。おかしなものだ、こんな曲はランニングには全く適していないし、テンポ的にも何がなんでも。タイトルがいうように、私は故障してしまっていた。
家に戻って、昨日のままになっていたぬるい浴槽に浸かって、そうだ!と思って冷たいシャワーを加える。サウナのあとのように熱くなった身体に、水風呂。そしてベランダにキャンプ用の椅子を出して、バスタオルのまま座って外気浴をした。(うちのベランダは2階なので道路からは見えない) サウナとランニングに生かされていると思った。ベランダの椅子に座って、この瞬間だけは生きてみていい、明日も繰り返してみていいと思った。それ以外のことは全てが嫌で、全く億劫で、何も受け付けられない。
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